職場と親

息子が大学生になり、飲食店でバイトを始めた。

 

我が子の初めての労働であり、親としてはどんな働きぶりか見てみたくなるのだが、「絶対に来るな」と言われたので、息子の働いていない時間帯にこっそりどんな雰囲気の職場なのかだけ、客として見に行った(笑)

 

そういえば・・と銀行に勤務していた時のことを思い出した。

 

銀行員の転勤は、基本的に1か月前とかではなく、数日前というような短い日数に内示される。その理由は、不正防止のためである。

例えば自分の担当顧客の口座から不正に金を抜き取り、流用している行員がいたとしよう。1か月前に転勤がわかってしまえば、その間に隠ぺいすることが出来る。そのような時間・機会を与えないために、数日前にしか転勤がわからないようにするのである。

 

ただ、支店長の転勤の場合は、もう少し長く10日ほど前に内示される。その理由は支店長なら直接現金を扱う機会が少ないため不正のリスクは小さいということと、諸準備のためであろうと思う。支店長の引継ぎ書を作成するのは、それなりのパワーがかかるし、顧客への転勤の挨拶状などの手配も必要になってくる。

 

私は支店長を3か店させていただいたが、その内示から辞令交付までの10日間ほどの間に両親に「支店においで」と言って招待し、応接室で少し話をした。銀行などとは無縁の親であっただけにどんなところかも知らないし、まして応接室に入ったことなんてないので、恩返しといえば気恥ずかしいが、それぐらいのことはしてあげてもいいかなという思いからであった。

なぜその10日間ほどの間であったのか?

やはり、支店長としての在任期間中は必死で、それだけの余裕もなかった。また部下の手前、時間中に業務外のことをしているわけだから示しがつかない。もちろん厳密にいえばその10日間ほども支店長であることには変わりないが、「もうこの支店はお役御免です」と言われると憑き物が落ちたような感覚になったものであった。

 

その意味で、息子がバイト先に来るなと言った気持ちはわからなくもない。頑張って働いて、社会や組織を勉強してくれればと思う。

 

先日、9年前に他界した父親の命日があり、そしてもうすぐ母親の3回忌が来る。父親はあまり感情を表に出さない人間であったが、支店を出る時、行員に会釈しつつも少しだけ誇らしげであったことを懐かしく思い出した。

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