銀行員時代やコンサルタントになった今も含めて、数千社の決算書を私は見てきました。その中には粉飾決算、もしくはそれと思われる会社も少なからずありました。
よく粉飾で使われる手法はどのようなものがあり、銀行はどのように見破っているのか、今回は実体験を中心に本音で詳しく解説していきます。
1.現預金の粉飾
①預金の架空計上
支店長をしていた時のことです。とある業種の社長と税理士が決算書説明に来られ、同時に追加融資の申し込みがありました。決算書を見ると、若干ですが黒字ではありました。しかし当行の預金残高が2百万円であったのに対し、B銀行の預金残高が30百万円もありました。当行がメイン銀行で、過去にB銀行にそれだけ預金があったことはありません。
B銀行の預金残高証明書を依頼しましたが、税理士から「取っていない。なぜ必要なのか?」と反論があり、ちょっと違和感があったので、追加融資はお断りをしました。
その会社は半年後倒産しました。
結局、B銀行には預金は数千円しかなく、30百万円架空計上していたのです。B銀行に出した決算書には、当行の預金を架空計上してあったそうです。
②現金の架空計上
新規開拓ブロック長をしていた時のことです。税理士から新規先の紹介を受けて、決算書の提示を受けました。年商50百万円規模の製造業でしたが、預金残高が5百万円程度しかなく、なぜか現金で10百万円計上されていました。
「なぜ現金で10百万円も金庫に入れておかれているのですか?」と税理士に聞いても「詳しくはわからない」とのことでした。
現金商売をしている特定の業種ならまだしも、製造業で現金を持っておく理由はありません。結果、その企業とは新規取引を開始しませんでしたが、おそらく架空計上だったと思ってます。
お気づきだとは思いますが、現預金の架空計上は税理士が粉飾決算に関与していることがほとんどです。税理士は決算作業に預金通帳の写し等を必ず求めます。
私が銀行員時代にお付き合いした税理士の大半は、誠実で信頼できる方々でした。一方で、ごく一部ではありますが、粉飾決算への関与が疑われるケースも実際に経験しました。税理士としてあるまじき行為であり、決して許されるものではありません。
銀行が預金残高証明書や通帳写しの提出を求めたり、現金の確認を求めたりすれば、ばれてしまう稚拙な粉飾です。多額の粉飾はばれる可能性が高いでしょう。
2.在庫の粉飾
①在庫の架空計上
実は、これが一番ばれにくい粉飾です。
銀行は会社の実地棚卸に立ち会うわけでもなく、原材料個別の価格についての詳しい知識があるわけでもありません。
特に数年にわたり少しづつ粉飾されて累積された場合は、よほど異常な金額でない場合は粉飾を見破るのは極めて困難です。
②不良・廃棄済の在庫を計上している
この粉飾もばれにくいです。
もう商品や材料としての価値のないものや、廃棄してしまったものを帳簿上ある状態にしておくだけですから、粉飾としては簡単です。
これらを見破る方法としては、まず売上高との兼ね合いです。一過性でたまたま決算時に在庫が増えていることもあるでしょうが、基本的には売上高が横ばいないしは減少している時に、在庫が大きく増えるのは不自然です。
あわせて先に述べた通り、簡易にできるがゆえに累積して次第に多額になって実態と大きく乖離しているケースがあります。業界平均値と大きくかけ離れた場合などは、銀行は不自然に思います。
3.売掛金の粉飾
①回収不能の売掛金計上
例えば売掛先が倒産したとか、業況悪化で回収できない売掛金を貸倒処理せずに、そのまま計上しているケースです。
銀行は融資取引先に対して、決算書と同時に「勘定科目明細」を要求します。そしてその1期だけの決算を見るのではなく、過去3期分程度の決算書と比較します。
その時に、勘定科目明細上、昨年以前と同じ先に同じ金額の売掛金が載っていれば、1年経っても回収できない売掛金と認定して、不良資産と見ることが多いです。
4.売上高の粉飾
①売上の架空計上
まだ納品していない売上を計上する、あるいは存在しない売上を計上するようなケースです。
②売上の前倒し
本来ならば翌期の売上であるものを、今期の数字を良くするがために前倒しで計上するケースです。
これらも銀行が見破りにくいケースです。ただこういう場合、同時に売掛金もその分増加して計上されます。銀行は決算書だけでなく、月次試算表の提出を求める場合があります。たとえば決算期が3月末であった場合、2月の試算表の売掛金の金額から急に多額に増加した場合などにばれることもあります。
5.経費の粉飾
①経費を翌期回し
本来今期に計上すべき、修繕費・広告費・外注費等を翌期回しとし、その分の利益を増やすというケースです。
前述の「売上の前倒し」もそうなのですが、翌期で処理できればまだいいのですが、こういうことを行う会社は、売上の前倒しや経費の翌期回しが恒常化してだんだんと膨らんでいく傾向が強いです。
6.循環取引
①グループ会社間での売上計上
小規模中小企業では少ないですが、グループ会社間で売上をA→B→C→Aというように売上を計上して、架空の売上を計上するケースです。
グループ会社それぞれで決算月を変えているため、銀行としてはわかりにくいですが、同時期のグループ会社の試算表を徴求してチェックすることが多いです。
さてここからが大事な話です。
銀行は粉飾決算の疑いがあった場合、度合いや緊急性にもよりますが、「社長の会社は粉飾決算をしていますね!」などと詰めることは実務上少ないです。詰め寄ったところで、融資期限前に前倒しで回収することが、困難だからです。
粉飾決算の疑いがあった場合、銀行は新規融資をせずに、すっと取引を縮小するようにします。粉飾決算であることを立証するよりも、「これ以上融資を増やさない」ことを優先するのです。
銀行にとって融資が回収不能になった場合、大きな損失が出てしまいます。その判断材料の根幹である決算書に嘘を記載するような会社とは、当たり前の話ですが以降取引をしません。
やはり地道に努力して会社運営を行い、胸を張れる業績をあげることが肝要ですし、課題があることも正直に話せる経営者でないと、銀行は信頼しないでしょう。
今回はここまでです。次回は今回の話にも少し関連してきますが、「銀行が急に態度を変える理由とは?」というテーマで解説したいと思います。








